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色の民俗:白
2020/11/09


お墓に戒名などを彫刻すると、合わせて黒や白などの色を入れることが多いです。
これは何のために行なうかというと、基本的には判読のためです。
正面文字のように太く大きな彫り入れであれば別ですが、戒名や建立者名くらいのサイズの文字ですと、新しい石に彫り入れてすぐはなかなか読みづらいものなのです。
時間が経てば、いわゆるコケが付いたという状態になって、判読できるようになりますが、新規で建てるお墓の文字は彩色させてもらうことが多いです。
と言って、色にまったく意味がないわけではありません。
何色がいいのかと尋ねられて、たとえば浄土系の宗派の方には、白色をお勧めすることが多いです。
浄土宗や浄土真宗というと、阿弥陀様をご本尊とする宗派なわけですが、阿弥陀様の浄土である極楽浄土は、別名を西方浄土と言うくらいで、西にあるとされています。
ところで古来の中国の思想では、東西南北の四つの方角に、それぞれ色を当てはめていました。
西でしたら白になります。
四方には同様に、神聖な動物や季節なども対応させられていました。
西の動物は虎ですので、白と合わせて、白虎というのが西方を司る聖獣となるわけです。
季節でいうと、秋が対応します。
白い秋、すなわち白秋というわけで、北原白秋の名前はここにちなんでいますね。
ちなみに東は青かつ春。
青春です。
というわけで、西方浄土を祈念する浄土宗系の方には、白をお勧めすることが多いということになります。
もちろん、色を入れる場合は判読に資するようにという要素があるわけですから、白御影のお墓を建てられるのに、こちらから白をお勧めするということはまずありません。
白というと、古くは喪の色も白であったことはよく知られています。
現在のように喪服が黒を基本とするようになったのは、西洋の洋服が移入されてきた明治以降のことになるようです。
昔は葬列に連なる人は、白装束を着用していたんですね。
花嫁も白無垢を着ますが、これについては少し前、「婚家の色に染まります」という花嫁の決意の表れ、などと解説する珍説が流布していました。
白色というのは、生と死の観念を織り込んだ、もう少しシンボリズムの高い色のようです。
民俗学者の宮田登さんは、『ヒメの民俗学』(ちくま学芸文庫、2000年)の中でこんなことを書いています。
「葬式の白が忌の衣に使われるのだとすれば理屈の上では、死穢にかかわる人々が着用するのだから避けられる、つまり非日常的な色彩として機能していることは明らかだろう。黒の場合、現代人はそのように意識しているわけだが、それと結婚式の白色と同じ心意に発しているとはとうてい言い難いことであろう。しかし黒以前の白には、女人の花嫁衣裳を葬式に着て、ハレ着とすることを当然とする潜在意識があったことが分かる」(273頁)
「花嫁の白むく姿は、一人前の女としての誕生を、天下晴れて表現することは明らかだった。それは生の場面のように見えるが、潜在意識下の場面で、死を見つめていたことが想像される。
白は生と死の二つの面を両義的に表現するといってよいだろう。葬式に参加し、死を見る場面で白衣に身を包むことは、死の場面のように見えるが、別な潜在意識の中で、生を見つめていたという逆説も成り立つのではなかろうか。〔…〕そしてこのような両義的世界により接近できたのは、やはり男より女だったのである。誕生から死にいたる間、また再生できることを、女は白色によって表現したのであろうか」(275-276頁)
当たり前ですが、色彩というのも奥が深いなと思うわけです。
特に民俗的表現として出てくる色には、人々の深い心意が隠されているわけで面白いですね。
お墓というと色彩とは無縁なグレースケールな世界と思われがちですが、石の色目などとはまた違ったところで、こんな色との関わりもあるということをご紹介してみました。
